DPTワクチンの概要
DPTワクチンは、ジフテリア、百日咳、破傷風という3つの感染症を予防するための混合ワクチンです。これらの疾患はそれぞれ異なる細菌によって引き起こされ、重篤な合併症や死亡のリスクがあるため、予防接種が重要です。
- ジフテリア(Diptheria): ジフテリア菌による上気道感染症で、喉の痛みや呼吸困難を引き起こし、またジフテリア毒素が心筋炎や神経麻痺など合併します。致命率は5~10%で、特に5歳未満および40歳以上ではリスクは高くなります。
- 百日咳(Pertussis):百日咳菌によって引き起こされる急性の気道感染症です。潜伏期は通常5~10日で、激しい咳が認められます。典型的には顔を真っ赤にしてコンコンと激しく発作性に咳込み(スタッカート)、最後のヒューと音を立てて息を吸う発作(ウープ)をきたします。特に乳幼児では重症化しやすいです。
- 破傷風(Tetanus): 傷口から侵入した破傷風菌が毒素を産生し、筋肉のけいれんや呼吸困難を引き起こします。3~21日間の潜伏期間を経て、開口障害や3~4週間持続する全身の筋強直を呈します。開発途上国では致死率は8~50%で、特に小児の死亡の原因のひとつになっています。
流行地域
これらの疾患は世界中で発生していますが、予防接種が普及していない地域でのリスクが高いです。破傷風については、土壌や動物糞が主な感染源であるため、衛生状態が悪い地域でのリスクが増します。
予防
- 衛生管理: 傷口の消毒や感染者との接触回避が重要です。
- 予防接種: ワクチン接種が最も効果的な予防方法です。
DPTワクチンについて
ワクチンの種類
ジフテリア・百日咳・破傷風に対応したワクチンが使用されます。
乳幼児で用いられる5種混合ワクチン(2024年からジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオ・インフルエンザ菌b型)と11~12歳で用いられる2種混合ワクチン(ジフテリア・破傷風)は定期接種での実施になります。
トラベラーズワクチンとして用いられるのは、三種混合ワクチン(DPT:ジフテリア・百日咳・破傷風):「トリビック®」を使用します。
用量用法
DPTワクチンは不活化ワクチンで、0.5mlを皮下注射します。
海外渡航を目的として接種する場合には、10歳以降の年長児および成人においてブースター効果を期待して接種するため、1回の接種になります。
効果
接種後、ジフテリア、百日咳、破傷風それぞれに対する高い予防効果が得られます。
副反応
- 局所の腫れや赤み、痛みが一般的です。
- まれに発熱、全身倦怠感が見られることがありますが、重篤な副反応は極めてまれです。
接種推奨者
- 定期予防接種未接種の小児
- 欧米へ留学予定の方
DPTワクチンとTdapワクチン
Tdapワクチンの概要
Tdapワクチンは、DPTワクチンの成人・思春期向けのバージョンで、ジフテリア、百日咳、破傷風を予防します。ジフテリア、百日咳の成分が低用量になっているため副作用が少なく、成人でも接種がしやすい設計になっていますが、日本では流通していません。
欧米では乳幼児期に日本でいうDPTワクチンを4回定期接種した後、4-6歳と11-18歳でTdapを2回追加し、少なくとも計6回定期接種しています。加えて、赤ちゃんが百日咳に罹患すると重症化するためマターナルワクチンとして、妊婦さんには妊娠毎にTdapを接種することが米国では推奨されています。
DPTワクチンとTdapワクチンの違い
項目 | DPTワクチン | Tdapワクチン |
---|---|---|
対象者 | 小児向け(生後3か月以降) | 成人および思春期向け(11~12歳以降に接種推奨) |
百日咳成分の量 | 高用量 | 低用量 |
接種目的 | 初期免疫形成(基礎接種) | 免疫強化(ブースター接種) |
接種回数 | 初回3回接種+追加接種 | 基本1回、必要に応じて10年ごとに追加接種 |
主な使用状況 | 小児の標準的な予防接種スケジュール | 妊婦(妊娠中期)、百日咳流行地域での使用 |
副反応 | 局所反応(腫れや発赤)、発熱がやや多い | 局所反応が軽度で発熱も少ない |
接種スケジュール
- 初回接種: 通常11~12歳頃に1回接種
- 追加接種: 成人は10年ごとの追加接種が推奨されます
- 妊婦: 妊娠27~36週の間に1回接種(百日咳予防のため)
日本と欧米の違い
- DPTワクチン: 日本では、留学前のワクチンとして接種する場合は、Tdapに代えてDPTを接種することになります
- Tdapワクチン: 欧米諸国において留学生がTdapを指定して接種を求められることがあります。日本で接種する場合は個人輸入している医療機関を受診する必要があります(当院では個人輸入には対応していません)