狂犬病の概要
狂犬病は、ラブドウイルス科の狂犬病ウイルスが原因で発症する致死率の高いウイルス性疾患です。ウイルスは感染した動物(犬、猫、コウモリなど)に咬まれたり、傷口に唾液が付着したりすることで体内に侵入します。潜伏期間は1~3か月が一般的ですが、最短で数日、最長で1年以上に及ぶ場合があります。症状が発症すると致死率はほぼ100%で、予防が非常に重要です。世界で年間5~6万人死亡者がいます。死亡者の半数以上が15歳の小児です。
流行地域
狂犬病は、アジア、アフリカ、中南米など、多くの国で流行しています。その大部分は都市部から離れた地域での発生です。日本を含め一部の先進国では犬の予防接種が徹底されているため、感染例が少ないですが、野生動物(キツネ、アライグマ、コウモリなど)による感染リスクは依然として存在します。
予防
- 動物との接触回避: 野生動物や見知らぬ動物には近づかない。
- 予防接種: 特に感染リスクが高い地域を訪問する場合はワクチン接種が推奨されます。
狂犬病ワクチン
ワクチンの種類
日本で使用されるワクチンには「ラビピュール®」があります。2019年に国内承認されました。
用量・用法
狂犬病ワクチンは不活化ワクチンです。小児・成人とも接種量は1.0mlで、筋肉内に接種します。
暴露前接種と暴露後接種の2種類があります。
暴露前接種(pre-exposure prophylaxis; PreP)は職業上や居住上の暴露リスクのある者に対して行います
暴露後接種(post-exposure prophylaxis; PEP)は加害動物からの咬傷を受けた後にワクチンを接種を行います。狂犬病の症状が発現する前に実施することが重要です。
暴露前接種(PreP)
- 初回接種
- 1週間後に2回目
- 3~4週間後に3回目
その後も継続的な暴露の危険がある場合は2年おきに追加接種を行います。
重要
暴露前接種をしていても、動物咬傷後には曝露後予防として迅速に追加接種を受ける必要があります。
暴露後接種(PEP)
狂犬病流行地域で動物に咬まれた場合 受傷部位を十分に洗浄・消毒処置を実施し、可及的速やかにワクチン接種と重症の場合は免疫グロブリン投与することになります。動物咬傷を受けた際にはすみやかに現地の医療機関を受診するようにお願いします。
標準的な暴露後接種のスケジュールは、初回接種日、3、7、14、28日の計5回が必要になります。2018年のWHOの指針では4回にすることもできます。
帰国後の接種については、当院でも対応可能ですが、ワクチンの準備が必要ですので、まずは電話でご相談ください。
効果
適切な接種スケジュールを守ることで、狂犬病ウイルスに対する強い免疫を得ることができます。
副反応
一般的な副反応には接種部位の痛みや腫れ、軽い発熱、頭痛などがありますが、重篤な副反応は稀です。
接種推奨
- 狂犬病流行地域に渡航予定の方
- 動物と接触する可能性がある職業や活動を行う方や都市部から離れた流行地に居住する方(例: 獣医師、ボランティアなど)
恐水症
日本国内では狂犬病は約50年前に排除されましたが、手塚治虫の漫画「ブラックジャック」にも登場する狂犬病患者では「恐水症」の場面が描かれています。飲水しようとすると咽頭喉頭部の激しいけいれん発作が起こります。このため、患者は水分摂取を拒否し、洗顔や手洗いなどの水に触れる行為を避けるようになります。また風や音による刺激もけいれん発作を誘発します。