未分類

小児科外来で使用する抗菌薬について:抗生剤適正使用の取り組み

急性上気道炎(かぜ)の原因はウイルス(アデノ、インフルエンザ、ライノ、コロナなど)であり、細菌ではないため抗生剤は効果がありません。不要な抗生剤の内服は、効果がないところか、体内に薬剤耐性菌を誘導してしまう恐れがあります。薬剤耐性菌を保菌していると本当に抗菌薬が必要な時、例えば手術や菌血症などの重症細菌感染症にかかった時に、抗菌薬が効かなくて治療に難渋します。世界的に多剤耐性菌が出現し、効果のある抗菌薬の種類は減っている一方で、新規の抗菌薬の開発は限界にきているともされています。いまある抗菌薬を適切に使用して、耐性菌を作らない取り組みがクリニックなどの日常診療でも必要です。実際、小児科の外来では、抗生剤を使う場面は限られています。薬剤耐性菌からお子様を守り、無用な薬剤耐性菌を作らないためにクリニックでは、抗菌薬は、本当に感染症が疑われるときのみに限定して処方するようにしています。

抗生剤適正使用の取り組み

上記のとおり、お子様が発熱する原因として多いのは「風邪」(急性上気道炎)です。風邪はウイルスが原因であり、抗生剤は効きません。

風邪などのウイルス性疾患には効果がないどころか、不要な抗生剤の投与は薬剤耐性菌を増やすことになります。薬剤耐性菌とは、抗生剤が効かない・効きにくくなった菌のことをいいます。

薬剤耐性菌は日本や世界中で増え続けており、その原因として抗生剤の不適切もしくは過剰な使用が背景にあると考えられています。薬剤耐性菌が増え続けると、本当に抗生剤が必要な病気になった時に抗生剤が効かず、重症化・難治化してしまいます。

当クリニックでは不必要な抗生剤の処方を避け、必要な時にはしっかり使用するといったメリハリのある処方を心がけます。

何度も書きますが、抗生剤は細菌感染に使用するお薬です。抗生剤の投与を適切に使用して、薬剤耐性菌からお子さんを守りましょう。

当院では小児抗菌薬適正使用加算を算定しております

急性上気道炎(かぜ)

急性上気道炎(かぜ)の原因は、ウイルス感染が原因です。基本的に抗生剤は投与しても意味がありません。

ウイルス頻度
ライノウイルス30~50%
コロナウイルス(季節性)10~15%
インフルエンザウイルス5~15%
パラインフルエンザウイルス5%
RSウイルス5%
アデノウイルス<5%
エンテロウイルス<5%
ヒトメタニューモウイルス数%
そのほか20~30%
Heikkinen T et al.The common cold. Lancet 2003

ライノウイルスについては100種類以上あり、かぜ全体の半分を占めます。ライノウイルスは種類が多いため、別のライノウイルスに感染すると再度かぜを引いてしまいます。パラインフルエンザ、RS、コロナについても免疫が持続しないため、同じウイルスでも再度感染することがあります。この中で、小児で抗ウイルス薬の適応があるのはインフルエンザのみです。

抗インフルエンザ薬について

抗インフルエンザ薬として、内服でオセルタミビル(タミフル®)、吸入薬でラニナミビル(イナビル®)、点滴でペラミビル(ラピアクタ®)が処方されます。日本ではオセルタミビル(タミフル®)耐性のインフルエンザは0.3~4.1%です。健常な小児でインフルエンザに対してオセルタミビルを用いると平均で約29時間ほど発熱期間を短くする効果が認められています。しかしながら、全例でオセルタミビルを服用する必要があるかは議論のあるところで、オセルタミビルを外来で使用しても入院率は減少しなかったという報告もあります。バロキサビル(ゾフルーザ®)が2018年に発売され小児でも適応がありますが、バロキサビルは耐性誘導のリスクがあることから、1回の内服で済むというメリットはありますが、現時点ではオセルタミビルを上回るメリットはありません。ですので、私は内服しかできない小さいお子様はオセルタミビルを、吸入ができる小学生以上のお子様はラニナミビルを処方しています。

急性中耳炎

主な原因菌は肺炎球菌やインフルエンザ桿菌、モラキセラ・カタラーリスなどです。急性中耳炎でも自然軽快することがあり、必ずしも全例に抗生剤が必要なわけではありません。アメリカの小児科学会では、中耳炎における抗生剤の適応として、耳漏がある場合や症状が強い場合は抗生剤の適応があるとしていますが、片側性で耳漏がない場合は経過観察を推奨しています。

肺炎球菌は中耳炎の25~50%の頻度であり、日本ではPRSP(ペニシリン耐性肺炎球菌)の頻度はいまのところ少ないことから、ペニシリン系抗生剤を高用量で十分対応可能です。また日本では肺炎球菌のマクロライド耐性肺炎球菌は9割にもなることからマクロライド系抗生物質は推奨されません。

一方で、インフルエンザ桿菌は中耳炎の15~30%の頻度ですが、日本ではβラクタマーゼ非産生ABPC耐性(BLNAR)インフルエンザ桿菌が増えていることから、アモキシシリンで治療がうまくいかない場合は、アモキシシリン・クラブラン酸(クラバモックス®)で対応ができると考えます。

アモキシシリン(AMPC) 高用量:(60~)90㎎/kg/日 分2~3 5~10日間 内服量が多くなるので飲ませ方に工夫が必要になります

溶連菌性咽頭炎

A群β溶連菌は咽頭炎の原因菌のひとつです。クリニックでは迅速検査で診断しています。溶連菌の第一選択はペニシリン系抗生剤になります。これは、薬剤耐性菌予防の観点からできるだけ抗菌スペクトルの狭い薬剤を使用すること、溶連菌のペニシリンへの耐性菌は原則ないこと、リウマチ熱の予防効果がしめされているのはペニシリン系抗生剤のみであることが理由です。

アモキシシリン(AMPC) 40~50㎎/kg/日 分1~2 10日間

細菌性肺炎(年少児)

4歳以下の乳幼児の肺炎は主にウイルス性が占めており、細菌性は10%程度です。細菌としては肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラキセラ・カタラーリスなどが原因となります。近年アメリカの小児科学会の提言によると「適切に予防接種が実施され、合併症のない小児の市中肺炎にはアンピシリンより広域な抗菌薬を使用すべきではない」と述べられています。予防接種により肺炎球菌やインフルエンザ菌による重症感染症はほとんど経験することがなくなりました。そういった点でも、外来ではアモキシシリン以上の抗菌薬を選択する意味はないように考えます。

アモキシシリン(AMPC) (60~)90㎎/kg/日 分2~3 5~7日間 内服量が多くなるので飲ませ方に工夫が必要です

細菌性肺炎(年長児~)

主な原因菌はマイコプラズマなどです。マイコプラズマ感染症は5~12歳の学童に多く、主に気管支炎や肺炎を引き起こします。診断はLAMP法などで行います。近年、日本を含むアジアではマクロライド耐性のマイコプラズマが増加傾向にあります(2012年のデータでは耐性菌は81.6%にもなります)。マイコプラズマは自然軽快することも多いことから、私はマイコプラズマに対しては、マクロライド系抗生物質であるアジスロマイシンを第一選択にしています。マクロライドに効果がない場合は、第2選択としてクリンダマイシンやテトラサイクリンが候補になりますが、クリンダマイシンはマクロライドとの交叉耐性の問題がありますし、テトラサイクリンは8歳未満のお子さんでは歯牙黄染(3~4%)を起こすことがあり安易な処方には注意が必要です。治療抵抗性のマイコプラズマ感染症に対してはプレドニゾロン2㎎kg/dの有効性が認められており、抗生剤ではありませんが選択肢のひとつとして考えてもよいと考えています。

アジスロマイシン(AZM) 10㎎/kg/日 分1 3日間 3日間飲めば、その後1週間は有効な血中濃度が維持されます

百日咳

百日咳は百日咳菌が原因です。日本では百日咳の予防接種の回数が不十分(本来であれば就学前に3種混合、11歳児の2種混合を3種混合)であるため、年長児や小中学生で咳が続くときに、鑑別が必要になります。最近発売された迅速診断キットやLAMP法などで診断を行います。5類感染症のため全数報告の対象疾患です。

クラリスロマイシン(CLM) 15㎎/kg/日 分2 7日間

急性化膿性リンパ節炎や伝染性膿痂疹(とびひ)など

小児の皮膚感染症は、伝染性膿痂疹(とびひ)や蜂窩織炎が多く主な原因菌は黄色ブドウ球菌や溶連菌です。治療の基本は洗浄で皮膚の清潔を保つことが重要です。そのうえで、ほとんどのケースでは外用抗生剤(軟膏)で対応可能です。抗生剤の内服が必要な例としては、皮下組織に進展している、発熱を伴う、リンパ節炎を伴う、多発性(5か所以上)、アトピー性皮膚炎の合併がある例などです。まだ市中感染のMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の頻度は多くないことから、まずは第1世代のセフェム系で開始します。

セファレキシン(L-ケフレックス小児用細粒):CEX (25~)50㎎/kg/d 分2~3 5日間

尿路感染症(腎盂腎炎、膀胱炎)

主な原因菌として大腸菌や腸球菌などがあります。大腸菌に関しては耐性化が進んでいてESBL(基質特異性拡張型βラクタマーゼ産生菌:薬剤耐性菌の1種)のこともありますが、まずは感受性あるものとして治療を開始します。

セファレキシン(L-ケフレックス小児用細粒)CEX (25~)50㎎/kg/d 分2~3 7日間

急性胃腸炎

小児の急性胃腸炎の原因の多くは、ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなどのウイルスであり、細菌が原因であることは多くありません。細菌性胃腸炎の原因としてはカンピロバクターやサルモネラ、腸管出血性大腸菌などがありますが、これらは食中毒の原因菌として多いです。日常診療では、胃腸炎に抗生剤は必要ないことがわかります。

まとめ

ここまで見ていただくと、小児科の外来で処方する抗菌薬は、アモキシシリンケフレックスクラリスロマイシン(orアジスロマイシン)などの数種類に限られることが分かると思います。

以前は第3世代セフェム系抗菌薬がこども用の抗菌薬として、主に処方されていましたが、様々な点で問題があることが分かってきました

第3世代セフェム系抗菌薬のなかで、セフカペンピボキシル:フロモックス®、セフジトレンピボキシル:メイアクト®などピボキシル基がついているものは長期に使用するとカルニチンを消費してしまい低血糖になることが分かってきました。カルニチンは脂肪酸をアシルカルニチンにβ酸化してエネルギーを得るために使われるため、長期にピボキシル基がついた抗菌薬を使用すると、脂肪からエネルギーが作れず、糖を消費してしまい低血糖を引き起こしてしまいます。

また第3世代セフェム系抗菌薬はバイオアベイラビリティが低く(高くても50%程度:メイアクトは14%、セフゾンは25%、バナンは50%程度)、経口摂取された抗菌薬が実際に有効な血中濃度を得るためには、添付文書で示されている量では不十分であることも分かっています。

ですので、クリニックでは、アモキシシリンにアレルギーがあるとか、どうしても抗生剤が飲めない場合に限り、第3世代セフェム系抗菌薬を処方するようにしています。

-未分類