乳児血管腫

ヘマンジオルシロップ®の内服について

乳児血管腫について

乳児血管腫は、以前は「いちご状血管腫」と呼ばれていました。乳児期に発症する良性の脈管性腫瘍のひとつです。

乳児血管腫は、出生時には小さいもしくは認められないですが、徐々に大きくなって、見た目がいちごのようになることがあります。

腫瘤型の血管腫で、顔などの露出部にできた血管腫は 将来、審美面(見た目)で問題になることが多く、治療の適応があります。

なかでも、クリニックで実施しているのは、プロプラノロール(ヘマンジオルシロップ®)による内服治療です。

血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン2017」でも、プロプラノロールは第一選択薬として推奨されています。

2016年に保険収載(健康保険が使えます)され、内服治療が可能になりました。

乳児血管腫に対するプロプラノロールの薬理作用

血管内皮細胞にはβ1、β2アドレナリン受容体が発現しています。プロプラノロールはβ1、β2、β3アドレナリンをブロックすることによって薬理作用を発揮します。

  • 血管収縮作用
  • 細胞増殖抑制作用
  • 血管新生抑制作用
  • アポトーシス誘導作用

2008年に乳児血管腫を合併する肥大型心筋症のお子さんに心不全の治療のためプロプラノロールを使用したところ、乳児血管腫にも効果があることが偶然発見されました。2014年からプロプラノロールの経口液剤がアメリカ、ヨーロッパで承認されました。日本では2016年にヘマンジオルシロップ®が保険収載され、乳児血管腫に対して内服治療ができるようになりました。

ヘマンジオルシロップ®の効果

乳児血管腫は、生後5か月をピークに急速に拡大し、その後3歳ごろに自然消失しますが、25.0~68.6%(報告により随分と幅がありますが)の症例に病変部位の皮膚萎縮、瘢痕、毛細血管拡張などの後遺症が残るとされています。

海外で実施された臨床試験では、プロプラノロール内服(3㎎/kg/d)群で24週後(6か月後)に「治癒またはぼぼ治癒」した割合が60.4%で、プラセボ(偽薬)群では8.0%と比較して、有効性が認められました。

国内で実施された第III相臨床試験では、24週間後に「治癒またはほぼ治癒」した割合は78.1%でした。

副作用

上記のように、非常に有効性の高い治療ですが、プロプラノロール内服によってアドレナリン受容体がブロックされることにより、心拍数減少、血圧低下、心収縮力低下、心興奮性低下、気管支収縮などが現れることがあります。

特に飲み始めの時の心臓への作用(徐脈、血圧低下)哺乳間隔が空いてきた時の低血糖呼吸困難には注意が必要です。

飲み始めの時の心臓への作用

β遮断作用により、低血圧0.9%、徐脈0.5%が認められることがあり、特に飲み始めや増量時に起こりやすいです。そのため、飲み始めや増量時は医療機関で経過観察する必要があります。

低血糖

低血糖は約0.5%の症例で認められます。特に、哺乳間隔が空いてくる乳児期後期は低血糖のリスクが高くなります。乳児の低血糖は大人と異なり、症状が分かりにくいことがあります。顔色が白くなる、寝起きが悪い、反応がいつもと異なる、食事や哺乳が出来ない、体温低下、けいれんなどが認められたときは低血糖がないか血糖値を調べる必要があります。低血糖を防ぐためには、食前や食後すぐにシロップを内服させたり、長時間の絶食は避けたり、就寝前の内服は避けたり、下痢などの胃腸炎症状のあるときは内服をやめるなどの対応が必要です。

呼吸困難

喘鳴は約3.0%、気管支攣縮は0.2%の症例で認められます。β受容体遮断作用により、気管や気管支などの気道を狭くさせる作用があるため、もともと喘息がある場合は喘息が悪化したり、喘鳴や呼吸困難を起こしたりするおそれがあります。そのため、喘息や肺に異常があるお子さんは内服することができません。

治療開始時の受診の流れ

当日の体調が問題ないことを確認します。

初回投与前の検査(体重測定、心拍数、SpO2の測定、聴診、血圧、血糖値、心電図、超音波検査など)を行い、問題がないか確認します。

その後、ヘマンジオルシロップ®を処方しますので、薬局でお薬をもらってきていただきます。

ご家族に内服指導をしながら、一緒に初回内服をしていただきます。

ヘマンジオルシロップ®は専用の瓶とシリンジが付属されており、正確に内服量を計量する必要があります。

内服後の約2時間程度は、クリニック内で経過観察します。

あとは、自宅で次回受診まで内服を続けてください。何かお困りのことやお気づきのことがあれば、受診してください。

ヘマンジオルシロップ増量時(2週目、3週目)の流れ

当日の体調が問題ないことを確認します。

心拍数やSpO2の測定、聴診、血圧、血糖値などの検査を行い、問題ないことを確認します。

体重に合わせて、増量した量でヘマンジオルシロップ®を処方しますので、薬局でお薬をもらってきていただきます。

内服後は2時間程度クリニック内で経過観察します。

あとは、自宅で次回受診まで内服を続けていただきます。

効果判定と治療終了のめやす

あくまでも自験例の経験からですが、維持量(3㎎/kg/d)に達してから、2週間ぐらい経過したら、効果があるお子さんは血管腫の色調やサイズに変化が見られ始めます。目立たない状態になるまでは、やはり数か月~半年ぐらいかかるお子さんが多いように思います。
24週(約6か月)の内服期間終了後、効果があったお子さんは一旦内服終了になります。効果がなかった場合や病変が残った場合は、レーザー治療などの皮膚科治療に切り替えをおすすめします。

以上、乳児血管腫に対するヘマンジオルシロップ®の内服治療の流れについて概説しました。

これまでの経験からも、乳児期早期に治療を始めた方が効果が得られやすいと思います。この治療をためしてみたいお子さんは、クリニックまでお気軽にお問い合わせください。

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