こどもの病気

こどものかぜの治療について

新学期や保育園の通い始めの時期は、おこさんがかぜをひいてしまって、すぐに保育園からお呼び出しってことしばしばですよね。

研究報告によると、特に保育園に通い始めのころは風邪を引く回数が増加し、落ち着くまでに9か月程度かかることが示されています。保育園に通いだしたら風邪をもらってきてばかりというのは本当なのです。

また、2歳未満のお子さんは1年間に平均5~6回風邪を引きます(成人は1年間に2~3回ぐらい)。子供にとってかぜを引くのはある意味自然なことなのだと思います。

そして、かぜをいったん引くと、約半数のお子さんは10日以上鼻水続き、3週間以上鼻汁が続いているお子さんも約2割ぐらいおられます。一方で、のどの痛みや食欲低下、発熱などは1週間もあれば、ほとんど消えます。

かぜの時、症状を和らげるためにクリニックを受診するわけですが、その際に処方される薬について、今回は考えてみたいと思います。

内服治療

おこさんはよく、かぜ(上気道炎)にかかるわけですが、基本的にウイルスが原因ですので、一部のウイルスには抗ウイルス薬(インフルエンザなど)がありますが、抗生剤は効果がないので、対症療法(症状に合わせてお薬を処方)することになります。

咳止めについて

コデインは咳止めのなかで最も強い効果があると考えられています(実際はそうでもない...)が、小児ではほとんど使うことはありません。というのも、コデインは麻薬性であるため依存性の問題や呼吸抑制、腸の動きが悪くなる、眠気、めまい、悪心、嘔吐などの副作用が認められるためです。2019年よりコデインを含む市販薬は12歳未満への子供の使用が禁止されました。2011年にWHOは小児にコデインを使用しないように勧告を出しています。

コデインを含む市販薬:せき止めシロップ・コンコン咳止め液、小児用エスエスブロン液エース、小児用ヒストミンかぜシロップ、新コールトップ液G・K、アルベンこどもかぜシロップ などです

こどもに処方される咳止めとしては、チペピジン(アスベリン®)があります。実際に小児科外来でもよく処方されますし、私も処方することがあります。しかしながら、チペピジンが小児の咳止めとして有効であるというエビデンスは実際にはあまりありません。自然にかぜが治ったのか、薬によって咳が軽快したのかを区別する研究デザインは立てにくいのがあります。ただ、チペピジン自体も副作用がないわけではなく、例えばおしっこが赤くなるとか食欲が落ちるといったことはしばしば診療で経験されます。

去痰薬について

小児のかぜで最もよく処方されるのがカルボシステインアンブロキソールなどの内服薬です。私もかぜの症状で来られたお子さんによく処方するメインのお薬になります。

カルボシステイン(ムコダイン®など)は気道粘液修復薬で、気道の粘液分泌を促進したり、線毛細胞を修復することで痰や鼻汁の粘調度を下げて痰や鼻汁を出しやすくする作用があります。それによって、痰がらみの咳を改善させたり、かぜの諸症状の改善に寄与するかもしれません。(かもしれませんとしたのは、明確なエビデンスが得られていないからです)

アンブロキソール(ムコソルバン®、ムコサール®など)が気道潤滑薬で、肺のサーファクタント分泌を促し、気道のクリアランスを改善させる作用があります。これもかぜの諸症状を改善させる明確なエビデンスは得られていませんが、咳や去痰に有効である可能性はあります。

抗ヒスタミン薬について

かぜをひくと、鼻汁が出るわけですが、抗ヒスタミン薬(レボセチジリン®、フェキソフェナジン®)は、抗アレルギー薬でもあり、鼻水の産生を抑えて、後鼻漏(鼻の奥の鼻水)による咳を減らして中耳炎や副鼻腔炎への移行を抑えてくれることを期待して処方します(アレルギー性鼻炎に対する抗ヒスタミン薬の選択については別の記事で説明しています)。

抗ヒスタミン薬の処方で問題になるのは、抗ヒスタミン薬が脳に移行して眠くなるという副作用があり、これに関しては、第2世代の抗ヒスタミン薬が登場してからは、あまり気にしなくなりました。一方で、抗ヒスタミン薬が熱性けいれんを誘発、もしくは遷延させる可能性があります。昔はムコダイン、アスベリン、ペリアクチンの3つを一緒にして処方することが多かったですが、いまはそのような処方を出すことはめっきり減りました。

気管支拡張薬について

咳が続く、ゼコゼコするということで、気管支拡張薬(内服:メプチン®、ホクナリン®、貼付薬:ホクナリンテープ®)を処方することがあります。気管支拡張薬(β2刺激薬)は気管支平滑筋を弛緩させることで、気管支を拡張させる効果があり、主に気管支喘息に対して用いられます。小児ではかぜを契機に喘息発作が起こることがしばしばあるので、クリニックではβ2刺激薬は、まずはメプチンを吸入してもらって、症状の改善があるかを確かめてから、そのまま吸入薬かもしくは内服を処方するようにしています。ご家族の希望があれば、貼付薬も処方しますが、貼付薬はジェネリック医薬品だと血中濃度が安定しないので、先発品のホクナリンテープ®で処方しますが、咳止めとしての効果があるかは検討する必要があります。

気管支喘息のない小児に対してβ2刺激薬が有効か評価したRCTでは特にβ2刺激薬を使用しても咳の症状が早く良くなるわけではなく、副作用として興奮や振戦(ふるえ)といった副作用が多くなったという結果でした。基本的にはやはり、気管支喘息や気道の過敏性が亢進しているお子さんに対して気管支拡張薬は使うべきだと思っています。

ロイコトリエン拮抗薬について

ロイコトリエン拮抗薬(モンテルカスト:キプレス®、シングレア®、プランルカスト:オノン®)は小児の気管支炎喘息の発作を予防するお薬です。ロイコトリエンは好酸球やマスト細胞などから作られます。ロイコトリエンは気管支平滑筋を収縮させ、血管透過性を向上させることで、気管支や鼻粘膜の分泌物を増加させます。ロイコトリエン拮抗薬はロイコトリエン受容体を阻害して、気管支喘息やアレルギー性鼻炎に効果を発揮します。

小さいお子さんは、RSウイルスやヒトメタニューモウイルスなどに感染すると急性細気管支炎を発症してしまうことがあります。細気管支炎を発症すると、咳が続いたり、ゼイゼイすることがあるので、ロイコトリエン拮抗薬が使われることがあります。しかしながら、呼吸器ウイルス感染症に関連した喘鳴(ゼイゼイ)に対しては経口ステロイド使用や救急外来受診、入院回数を減らす効果は認められず、小児のウイルス感染による喘鳴の治療としてロイコトリエン拮抗薬は推奨されていないのが現状です。ですので、喘息発作の予防以外でロイコトリエン拮抗薬を処方する場面というのは、アレルギー素因(家族歴など)があって、かぜの度にゼイゼイを繰り返すお子さんに対して、長期的に使用するということになるかと思います。

抗生剤

「かぜが悪化しないように、念のため抗生剤が欲しい」と考える方もおられるかもしれません。しかしながら、かぜはウイルスが原因であり、細菌が原因でないため、細菌をやっつけるための抗生剤は投与しても効果がありません。

実際、さまざま研究で以下の点が明らかになっています。

中耳炎に対する抗生剤の予防効果はNNT20(かぜの患者さん20人に抗生剤を投与して、1人だけ中耳炎の合併を防ぐことができる)

同様に扁桃周囲膿瘍や乳突蜂巣炎などのまれな細菌感染症のNNTは4000(4000人投与して1人予防)

肺炎については予防効果なし

ですので、かぜに抗生剤を内服したからといってかぜが治るわけではなく、すでに解熱するタイミングだった、いわゆる時間薬だったということが言えます。臨床上効果がない抗生剤を内服することのリスクについては別の記事でまとめていますので、一度ご覧ください。

かぜに対する内服薬のまとめ

クリニックではお子さんの症状に合わせて、まずはカルボシステインを処方します。

症状に合わせて抗ヒスタミン薬もしくは漢方薬(麻黄湯、葛根湯、葛根湯川芎辛亥、小青竜湯など)を追加します。

喘息を合併していそうなお子さんには、気管支拡張薬やロイコトリエン拮抗薬を追加します。

4種類以上の薬を飲むと、副作用の頻度が優位に上がるという研究もあるので、必要なお薬を最小限に処方するように心がけています。

2週間以上咳が続く場合は、原因を精査し、原因がない場合は、咳自体はそもそも異物が気道に入ってきた時に起こる反射であり、生理的なものであり、無理に消す必要はないということを医師と患者さんで共有するということも大切だと思います。

とはいっても、症状が辛そうだから、クリニックに受診してくれているわけであり、症状にあわせて薬を処方するのが医者としての仕事ですし、おやごさんとしても、咳や鼻汁で苦しそうにしているこどもを見ているのはかわいそうですよね。

そこでおすすめするのが、「鼻汁吸引」です。

鼻汁吸引

かぜの特徴は、鼻水がでるということです。この時、鼻水の色は特に関係ありません。色がついているからといって細菌が原因とはいえないのです。鼻水が多いと、鼻呼吸がメインのあかちゃんや1歳未満の乳児はそれだけで苦しくなったり、哺乳が悪くなったりしますので、お家でしっかり鼻水をとってあげるといいです。とはいっても、お子さんは動くし、嫌がるしで鼻水を取らせてくれないし、そもそも市販の鼻汁吸引器のパワーが弱くて、ぜんぜん取れないとお悩みの方も親御さんも多いと思います。クリニックでは、鼻汁が多いお子さんでは、内服処方以外に自宅でも購入できる電動の吸引器を使って、受診の際に鼻取りも行ってます。

鼻汁吸引器を使用した方が、β2刺激薬の使用割合が少なく、症状が短くなるという研究報告もあります。まだ鼻を上手にかむことができないお子さんでは、自宅で鼻汁吸引を試してみられてもよいかもしれません。

クリニックの外来で使用している吸引器

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